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第7回

東京・サステナブル・ファイナンス・ウィークの成果(上)

2021年2月9日(火)、東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラムが開催されました。
サステナブルファイナンスの普及促進及びサステナブルファイナンス分野における東京都のプレゼンスを目指す本フォーラムでは、本分野の第一線で活躍する登壇者の方々をお迎えし、サステナブルファイナンスの幅広い可能性を官民で検討しました。フォーラムには、国内外の金融機関、金融業界団体、民間企業等から多くの方にご参加頂きました。
「東京・サステナブル・ファイナンス・ウィークの成果(上)」では、基調講演の概要についてご紹介します。

【登壇者】

国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)特別顧問 末吉竹二郎氏
立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授 兼 不二製油グループ本社株式会社CEO補佐 河口真理子氏
アムンディ・ジャパン株式会社 チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー(CRIO) 岩永泰典氏

【ご講演概要】
1. サステナブルファイナンスを巡るグローバル動向(末吉氏)

末吉氏は、基調講演の冒頭でまず「21世紀の地球経営を考える原点」という視点を提示しました。我々が今どのような時代に生きているのかという時代認識が重要だとした上で、プラネタリー・バウンダリー(i) の警鐘を鳴らすヨハン・ロックストローム博士の言葉も挙げながら、我々がプラネタリー・エマージェンシー(緊急事態)に直面していることを指摘しました。また、国連事務総長グテーレス氏の発言”The State of the Planet is broken”(地球は壊れている)という言葉がまさに、我々が地球の経営を考える際の原点を表しているのではないかと問いかけ、21世紀の地球をうまく経営していくためには、人類と自然との平和共存が重要であることを主張しました。

続いて、UNEP FIがサステナブルファイナンスの先導役として推進してきた様々な取り組みの歴史や、最近の世界的潮流であるネットゼロ、その他、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)やSustainable Blue Economy、TCFDの義務化やIIRCとSASBの統合等の潮流が紹介されました。サステナビリティへの転換が抜本的に進むなか、これらの潮流が金融機関や事業会社にどのような影響をもたらしているかについても、事例を用いて解説しました。

ネットゼロに関しては、各国政府が相次いで政策を発表し、民間企業も積極的な戦略・方針を策定し、ビジネス戦争の様相を呈していていると言います。末吉氏は、このような大きな潮流のなかで問い直されているのは、資本主義の本質そのものであると指摘しました。社会と経済の大改革が必要になってきており、企業のマインドセットも、シェアホルダー資本主義からステークホルダー資本主義へ、つまり「株主第一」から、「社会第一」へ大きく変遷してきていると解説しました。

日本の金融の存在意義、在り方についても、これまでの経済第一主義から、環境と経済の新しい秩序を作っていく必要性を訴えました。ネットゼロが象徴するこの潮流により、日本においても、戦後最大の社会改革が始まっていくと指摘し、社会の基本的インフラストラクチャーである日本の金融が果たすべき役割について、金融当事者はもちろんビジネスあるいは社会全体も同時に日本の金融の在り方を考えるときが来たのではないかと問いかけました。

2. 日本におけるサステナブル投資の発展の系譜~SRIからESG投資へ~

河口教授は、日本におけるサステナブル投資の発展を「黎明期:社会的責任投資(SRI)」 、「定着・準備期間:社会的責任からESG(サステナビリティ)へ転換」、「離陸期:SDGsとESG サステナビリティと経済の融合へ」との3つのフェーズに分けて、各段階における詳細な歴史を、時代背景も交えながら紹介しました。

1990年代~2005年の黎明期は、社会的責任投資(SRI)が誕生してその後衰退していった時代であると解説しました。90年代の日本は、世間でも環境が盛り上がっていた時代であり、企業の環境への取組も本格化しました。金融セクターでは、99年に日本で初のSRIファンド、日興エコファンドが設定されて、大人気となり、その後、他社も追随し多くのSRIファンドが設定されました。株価低迷等様々な要因により伸びませんでしたが、アセットオーナーが不在だったという事も衰退の一因であると解説しました。

続く2005年~2015年は、SRIからESG(サステナビリティ)への転換が起こった時期であり、Social responsibility(社会的責任)の”S”からSustainability(持続可能性)の”S”に移行していった時期でした。日本では、徐々に動きがあったもののサステナブルファイナンスが停滞した時期であり、2006年に発足したPRIが、その後リーマンショック禍でも順調に署名数を増やしていくなか、2009年の3月時点での日本の署名機関はわずか13機関にすぎなかったと指摘しました。その後、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの登場により、機関投資家や大手金融機関がESGに配慮した投資を実施する枠組みができたことで、日本でも一気に市場が拡大してきた流れを解説しました。

河口教授は、2015年からがまさに離陸期と呼べる時期であると述べました。PRIの署名機関も、GPIFがPRIに署名した後に一気に拡大しました。2015年にようやく離陸したといえる日本のサステナブルファイナンスの市場は現在も急激に拡大しており、今後は日本の伝統的価値観と最新の金融テクノロジーを融合し、グローバル及びローカルな社会課題解決のためのファイナンスとして、世界のリーダーになっていくことに期待を寄せました。

3. 投資家の視点からみる国内外のサステナブルファイナンス動向(岩永氏)

岩永氏は、投資家の視点から、欧州及び日本における投資家視点でのサステナブルファイナンスの動向を解説しました。まずは責任投資のパイオニアであるアムンディの具体的な取り組みを紹介しました。

責任投資、ESG投資の動向について、2018年時点で、全世界の責任投資残高3,200兆円の約半分を欧州が占めているとのデータを挙げ、その背景には欧州委員会が策定したアクションプランや、整備された規則と情報開示フレームワーク等の要因があると分析しました。また、投資家の意識や投資のアプローチについては、ESG投資には2つの要素(経済的な価値をいかに追及していくか、投資を通じて社会的な課題にいかに貢献できるか)があり、そのバランスの置き方によって様々なアプローチがあることを解説しました。

日本では、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの導入により、ESGを踏まえた企業の活動と投資活動が求められるようになってきた経緯を解説したうえで、日本サステナブル投資フォーラムの最新の統計情報を基に、310兆円のESG投資がどのような内訳になっているのか、その動向を分析しました。また、アセットオーナー向けのサーベイ結果を踏まえ、経済的なリターンが確信されてないことと社会的な価値への寄与を測ることが難しいこと等が今後のESG投資を推進するにあたっての課題になっていくだろうと指摘しました。

投資家の立場から、ESGインテグレーションを重視したエンゲージメントを行うことは企業価値の向上に貢献できると述べ、エンゲージメントにおいて、経営戦略、ガバナンス、パフォーマンス管理、ディスクロージャーの四視点が不可欠であると言及しました。

【最後に】

上記のように、基調講演では、バックグラウンドや立場の異なる3名の登壇者に、サステナブルファイナンスの歴史、最新動向、課題等についてお話頂きました。
「東京・サステナブル・ファイナンス・ウィークの成果(下)」では、パネルディスカッションの概要をご紹介します。

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【注釈】

  • (i) いわゆる地球の限界、臨界点。地球の環境容量を科学的に表示し、地球の環境容量を代表する9つのプラネタリーシステム(気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染)を対象として取り上げ、そのバウンダリー(臨界点、ティッピング・ポイント)の具体的な評価を行ったもの。

執筆:PwCあらた有限責任監査法人

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